あるとくぺらせす

小説置き場

物語を語ろう・32

 宝くじで一億円当たった。
 喜んでいたら、その宝くじを盗まれた。
 絶望した。人生全てに絶望した。
 歩道橋の上で自分の人生についてぼうっと考えていたら、どんな気まぐれか、神様が現れた。
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結婚の条件

 小さい頃、父に尋ねたことがある。


「なんで、お母さんと結婚したの?」
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物語を語ろう・30(後半)





 いつものように部屋で本を開いていると、父が外交でいないからと、嬉しそうに部屋に入ってきた姉に腕を引かれ、外に出たことがあった。あれはもう十年以上前になる。
 今まで外に出るといえば、父のお客に紹介されるためだとか、気まぐれで祭りに連れて行ってもらえるときだけで、こうして姉とふたりでこっそり出かけるといったことは、初めてだった。
 あの男に知られたらどんな仕置きを受けるかと怯えていると、姉は大丈夫だと笑ってくれた。
 ふたりで手をつないで街に入ると、中は活気で溢れていた。初めて見るものや、初めてのにおい。何もかもが初めてで、新鮮で、夢の中にいるようだった。現実だと教えてくれたのは、手を握ってくれる姉のぬくもり。あの男が決して与えてはくれなかったもの。姉は欲しいものを全て与えてくれた。すごいとはしゃぐと、姉はうなずいた。

「大人になったら、いつでも好きなときに街へ行けるのよ」
「大人になったら?」
「そう! だから私、早く大人になりたいの。大人になったら結婚して、家から出るの」

 姉の無邪気な発言に、弟は言葉を失った。

「お父様のためにいくら頑張っても、私では無理なの。だって貴方がいるから」

 姉は寂しそうに弟を見つめ、きゅっと手を握り直す。

「男の子ってうらやましいわ。でも性別は神様がお決めになったことだから、仕方がないわね。お父様の期待に応えてあげてね。それができるのは、あなただけなのよ」



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物語を語ろう・30(前半)

 その日は雨が降っていた。
 黒いフードを頭からかぶったひとりの男が、人気のない路地裏にひっそりと建つ古びた家屋に入った。
 星の出ない夜の訪問者。家屋の主人は無言でその男を出迎えると、クリスタル製の小さな小瓶をテーブルに置いた。
 ろうそくの炎が怪しく小瓶を照らし出す。訪問者はあちこちから水を滴らせながら、その小瓶を見つめ、吐息を洩らした。

「それが、例の薬か?」
「左様でございます」

 声からして、男は青年のようだった。家屋の主人は小瓶を差し出した皺だらけの手から察するに老人のようだ。だがふたりの関係は、青年の方が上のようである。
 青年は、少し間を置くと、尋ねた。

「苦しまずにすむんだろう?」

 それはこの薬を注文した際に念を押したものだ。人間痛いとか苦しいとか、そういうものとは無縁のままで生きていきたいと願うものがほとんどだ。それが死ぬときでさえも。老人はわずかに目を細め、こくりとうなずく。

「眠るが如く――…」
「ならば、いい。約束の金だ」

 青年は懐から麻袋を取り出した。中からじゃらじゃらと音がする。それを老人に差し出すと、老人は両手でそれを受け取った。

「効果の程は、お約束いたします」
「どれ程で―――」

 青年の囁くような声は、雨音にかき消される。老人は青年の言いたいことを飲み込んで、正確に答えた。その言葉に青年はうなずき、踵を返す。

「世話になった」
「貴方様の望みが、叶いますよう」
「そうだな」

 青年は首だけで振り返り、大事そうに麻袋を抱える老人を見て、にやりと笑った。


「楽しみだよ。これで、全てが終わる」
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物語を語ろう・29(後半)





 翌日、湖に娘の姿はなかった。
 青年は最悪のことを考えて、知らずに頭を抱えてうめいていた。処刑はされていなくとも、牢獄に放り込んだ娘には、大した食事は与えられていないはずだ。想定外の出来事だってある。娘の身体は弱りきっているのだ。間に合わないかもしれない。
 娘の記憶の断片を計らずとも見てしまった青年は、娘の数々の境遇を思い、脳裏に浮かんだ全ての黒い部分を真っ白に塗りつぶした。

「俺が諦めていないんだ。あっちに諦めてもらっちゃ困る」

 青年は愛馬に跨った。
 一刻も早く、娘を助け出さなくては。
 それに。
 青年は、王子の顔を見たときから何かひっかかるものを感じていた。
 
 俺はあいつを、知っている?


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物語を語ろう・29(前半)

 気まぐれか、単なる偶然か。
 そんなことはどうでもよかった。

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物語を語ろう・28

MCで書いたものの加筆・修正版です。
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物語を語ろう・27

あなたは周りの顔色を、もう少し窺いなさい。

 会社で嫌な思いをするとき、決まってこう言われる。何故だろう。普通にしているつもりなのに。
 給湯室で、女子トイレの洗面台の前で。
 顔見知りの同僚・先輩たちは、どこか気まずそうな顔をして、私に言うのだ。周りの人の顔色、空気を読みなさいと。
 それはどういう意味なのか聞きたいけれど、なんだかそれもいけないような気がしてしまい、私は素直にうなずく。はい、今度からは気をつけます。
 でも言われたことの意味がわからない私は、今日も言われるのだ。
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物語を語ろう・26

 小さい頃、ボクは自分を特別な人間だと思ってた。
 大勢の中で、たった一人、ボクだけは皆と違う。
 ボクは選ばれた人間で、誰にもない力を持ってる。
 これは、絶対だ。
 ――そう思っていた時期が、確かにあった。
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物語を語ろう・25

かつて私には、憧れてやまないものがあった。
綺麗な洋服だとか、自分を綺麗にしてくれる化粧だとか、そんな些細なものだ。
いつからだろう。それを遠くに感じるようになったのは。
いくら手を伸ばしても、お世辞にも長いとはいえない私の腕は、遠ざかる憧れの物へかすりもせず、まっすぐに伸びていくだけなのだ。
ぴんとはりつめる私の手をつかんだのは、

つかんだのは――
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