あるとくぺらせす

小説置き場

用心棒・1

「手はずはどうだ」
闇夜に濡れる城の奥深く、密談交わすはふたつの影。ゆらゆらと、その計画がどちらへ転ぶか決めかねるようにゆらめく蝋燭の明かりの中で、ひとつの影がこそりと囁く。
「ぬかりはございませぬ」
答えるは、一目見ただけで赤子も泣き出すような、善悪の悪のみで形成されたような黒の塊である。いやよく見れば、塊には人間にあるべく目鼻がついているのだが、蝋燭の明かりも、それを照らすことを快く思わぬらしい。明かりの元にいても暗がりを覗き込むような気持ちにさせられる、不快な男がにやりと笑みを浮かべた。
「失敗は許さぬ。よいな?」
「心得ておりますれば」
頭を下げた闇の男は、しかしと、顔をあげる。
「上様も、恐ろしい計画を立てなさるものだ」
「言うな、わしとて辛いのよ」
そう言いながら楽しげに扇子をあおる。夏の夜は涼やかな風を障子の隙間から運んでくるが、彼らの密談の前では熱と化して届かぬと見える。蝋燭の炎が煽られ大きく傾いた――ひときわ明るく照らし出されたその男は、にやりと口元を上げて見せた。
「真貴子も死に、最早わしを止められる者はおらぬ」
正妻の名を愉快そうに口に乗せ、更に男の笑みは深くなる。扇子をぱちりと閉じ、とんと頭を畳に置いた。
「勝代の子をわしの世継ぎとするためには――」
「上様」
闇の男は鋭くそれを遮った。小さく辺りを窺う。言われた男は扇子を持ち上げ、女人のように、分厚い唇に当てて見せた。
「わしとしたことが」
「案ずることはありませぬ」
闇の男は深く首を垂れた。
「この鋭治郎(えいじろう)、必ずや仕留めてみせましょう――」
ふたつの影がくつくつと揺れる。さながらそれは、蝋燭の火のように。
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テーマ:プチ連載 - ジャンル:小説・文学

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