物語を語ろう・30(前半)2006-06-22 Thu 23:40
その日は雨が降っていた。
黒いフードを頭からかぶったひとりの男が、人気のない路地裏にひっそりと建つ古びた家屋に入った。 星の出ない夜の訪問者。家屋の主人は無言でその男を出迎えると、クリスタル製の小さな小瓶をテーブルに置いた。 ろうそくの炎が怪しく小瓶を照らし出す。訪問者はあちこちから水を滴らせながら、その小瓶を見つめ、吐息を洩らした。 「それが、例の薬か?」 「左様でございます」 声からして、男は青年のようだった。家屋の主人は小瓶を差し出した皺だらけの手から察するに老人のようだ。だがふたりの関係は、青年の方が上のようである。 青年は、少し間を置くと、尋ねた。 「苦しまずにすむんだろう?」 それはこの薬を注文した際に念を押したものだ。人間痛いとか苦しいとか、そういうものとは無縁のままで生きていきたいと願うものがほとんどだ。それが死ぬときでさえも。老人はわずかに目を細め、こくりとうなずく。 「眠るが如く――…」 「ならば、いい。約束の金だ」 青年は懐から麻袋を取り出した。中からじゃらじゃらと音がする。それを老人に差し出すと、老人は両手でそれを受け取った。 「効果の程は、お約束いたします」 「どれ程で―――」 青年の囁くような声は、雨音にかき消される。老人は青年の言いたいことを飲み込んで、正確に答えた。その言葉に青年はうなずき、踵を返す。 「世話になった」 「貴方様の望みが、叶いますよう」 「そうだな」 青年は首だけで振り返り、大事そうに麻袋を抱える老人を見て、にやりと笑った。 「楽しみだよ。これで、全てが終わる」 |
只今2006-06-19 Mon 23:09
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笹ヤコ52006-06-11 Sun 00:29
学生の頃。
手の平から滑り落ちていくものの重みを知らなかったあの頃。 好きなテレビドラマを録画したビデオテープ。 何度も見ていたら、ある日デッキの中でのびきったテープが絡まった。 しまったと思って四苦八苦していたら、ぶつんとテープが切れてしまった。 ああ。 その断ち切られた音を聞いたとき、二度とそのテープは使えないと茫然と思った。 もう繰り返し何度も見ているから、頭の中でいくらだって再生できる。 それでも虚しさと、切なさと、悲しみをわずかに抱いた。 頭の中で繰り返される映像。 いつもどおり帰宅して、ドアを開けて見た惨状。 テレビの中の虚像の物語には、いつだって終わりがあった。 登場人物たちが死ぬまでの話は滅多に描かれない。幸せなまま。時に悲しいままで終わっていく。 俺の物語は、あの瞬間終わったのだと思う。 家に帰れば血の海で、家族と呼んでいた肉の塊が、体液が、ところどこに飛び散っていました。それでおしまい。 めでたくなし。それでおしまい。 後は灰色のノイズがざっと流れて、そのまんま。 「笹塚さん」 頭の中で、誰かが俺のチャンネルを合わせようとしている。 酷いノイズ音。うるさくて。 ずっと閉じていたまぶたを開けた。 「笹塚さん」 最後にザザッとひときわ大きくノイズが走り、その音に顔をしかめる。うるさくて。 色を徐々に取り戻していく俺の脳裏に、視界に、誰かが入り込もうとしている。…誰だろう。ずっと調節しないでいたのに。アンテナを合わせたところで、真っ赤な部屋が、待ち受けているだけだというのに。 「大丈夫ですか? 私のこと、わかりますか?」 ためらいがちに触れる細い指が、指先に灯る熱が。 何度も巻き戻して見た映像。 何度も思い出した亡くした家族の笑顔。 …参ったな、もう壊れてしまったから、二度と再生されないと思っていたのに。 「…笹塚さん?」 「――今起きた。大丈夫だよ」 その熱には何の力がこめられていたんだろう。 思い出すたびにノイズに遮られて、諦めていたあの映像が。 不安げに見下ろす少女とだぶって、俺は目を瞬かせた。 ゆるゆると手を伸ばすと、少女はそれを両手でしっかりとつかみ、じっと俺を見つめる。 そうだ。 ああ、そうだった。 「忘れてないよ、弥子ちゃん」 再び俺の世界を鮮明にしてくれた君を、どうして忘れることができるだろうか。 テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学 |
コメレス2006-06-02 Fri 21:34
気づけば6月に入ってしまいました。
今月も更新していけるよう、精進していきたいと思います。 いつの間にかカウンターが一万を回っていて驚きました。 全て、来てくださる皆様のお陰です。 本当にありがとうございます。 |
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